社会福祉学部における「尊厳」を学ぶ教育プログラム

人間は誰もが、そして、どのような状態であっても、尊厳を宿しています。しかしながら、私たちは目に見える能力や地位あるいは容姿に目と関心を奪われ、そこにおいて人間を評価してしまいがちです。そして、低い評価をした人を価値が低い人のように見なし、場合によっては、蔑んだり虐待をしたりしてしまいます。 こうした現状に抗し、適切なソーシャルワークを展開するためには、すべての人間が“等しく”宿している“尊厳”について学ぶ必要があるのです。

「人間の尊厳」を学ぶ教育プログラム

関西福祉大学社会福祉学部では、以下の授業により尊厳を体系的に学びます。

①尊厳を学ぶ5つの機会

人間の尊厳は、「1.誕生の場面」、「2.自由が極度に抑圧されている人たちの想い」、「3.その人を大切に思う人たちの想い」、「4.死に直面した人の想い」、「5.死者の想い・言葉、あるいは死者への態度」、この5つの機会を通して学ぶことができます。

1年次
生と死の教育

①「人間の尊厳」の意味を学ぶ ②『種まく子供たち』(小児がんになった子どもたちの言葉が綴られている本)〔4〕 ③ドラマ『コウノドリ』シーズン2 第5話の「長期入院(誕生死)」〔5〕

社会福祉の原理と政策

①「このままでは生き地獄になっちゃうよ」という言葉を残して、自ら命を絶った鹿川くんの想い〔5〕

ソーシャルワークの基盤と専門職

引きこもり状態の人の「心の叫び」〔2〕

演習Ⅰ

①近藤宏一『闇を光に―ハンセン病を生きて』ハンセン病に罹り社会から排除された人たちの人生と想い〔2〕

2年次
スピリチュアル支援論

①『NICU命の授業――小さな命を見守る最前線の現場から』〔1〕 ②岩崎航『点滴ポール―生き抜くという旗印』難病により自由が極度に制限されている当事者の語り〔2〕

3年次
ソーシャルワーク演習Ⅱ

①「人間の尊厳」についての再確認 ②重い障がいをもつ人の保護者の想い〔3〕

5つの機会の中から、尊厳の「はたらき」を宿した言葉が生まれます。それらの言葉を通して、私たちは尊厳の「はたらき」に触れることができます。以下では、そんな言葉を紹介します。

【生と死の場面】(1) 誕生の場面

 ①豊島勝昭(2020)『NICU命の授業――小さな命を見守る最前線の現場から』  NICU(Neonatal Intensive Care Unit)は、生まれたばかりの赤ちゃんのための集中治療室のことです。 「あるお母さんはわが子と初めて対面したとき、あまりの小ささに思わず「ちっちゃ!」とつぶやき、あとは言葉にならなかったといいます。けれど、保育器の中に差し入れたお母さんの指先をちゃんと握り占めてくる、その力強さにお母さんとお父さんは驚き、生命力に感動して涙が流れ、どんな未来が来ようとこの子を守りたいと思ったそうです(豊島 2020:24‐25) 「ドラマ「コウノドリ」のある回のラストシーンでは、NICUの保育器の中にいる赤ちゃんとご両親が対面します。口や鼻や手足に、チューブがたくさん入っている小さな赤ちゃんに、最初は戸惑うご両親。保育器のそばで赤ちゃんを見守るうちに、「愛おしさ」や「この子を守りたい」という気持ちが湧いてくる様子が描かれていました」(豊島 2020:23)  存在(いのち)の尊厳に触れると人は、「この子(存在)を守りたい」という思いに駆られます。

②尊厳の学びを可能にする知性と感性を育む授業

尊厳を学ぶためには、「A. 苦しんだ体験を言語化する作業」、「B. 他者の痛みが感じられる想像力」、「C. 人間の美しさ、偉大さに気づく知性と感性」、を育む必要があります。

1年次
演習Ⅰ

①『小公女』にみる「大切なものを他者に差し出す」人間の美しさ〔C〕 ②自分が苦しんだ体験を言語化する〔A〕

実践的教養論

①『星の王子さま』が露わにする「心の目でないと見えない大切なもの」〔C〕 ②『君の膵臓を食べたい』、『カラフル』、『コンビニ人間』、『52ヘルツのクジラたち』などを通して養う想像力〔B〕

実践的公共論

①テーブル・フォー・ツー、おにぎりアクション、古着deワクチンなど、開発途上国への支援を通して想像力を養う。〔B〕

③各自で尊厳の「はたらき」に出会う大学生活

授業では尊厳の意味を学び、それに触れる「きっかけ」を提供します。そこでの学びを自分の大学生活の中に活かし、尊厳を感じる経験を積み重ねていきます。

尊厳教育とは

ここからは、「尊厳」「尊厳教育」とは何か解説していきます。

1.尊厳という言葉の概要

尊厳の意味

尊厳は、うまく説明することができないものです。それでもあえて言葉にするならば、移ろう(無常の)世界の中で感じる、“別格な価値(大切さ)”、“かけがえのなさ”、“厳かさ・尊さ”のことです。

尊厳という「はたらき」

尊厳とは、人間一人ひとりには“別格な価値(大切さ)”、“かけがえのなさ”、“厳かさ・尊さ”があると思い感じさせる「はたらき」です。そのため尊厳を理解した人は、能力や地位などに関わらず、人間一人ひとりに“別格な価値(大切さ)”、“かけがえのなさ”、“厳かさ・尊さ”を感じます。

支援と平等を生み出す尊厳というはたらき

人は、人に尊厳を感じると、そこに何か呼びかけのようなものを感じ、その人を人として大切にしようというはたらき掛け・関りをします。すなわち、尊厳が支援を生み出します。また、「すべの人に尊厳があるある」という理解が、人間は平等という感覚と人間理解を生み出します。すなわち、尊厳は支援や平等を生み出します。

尊厳を学ぶ理由(必要性)

人間は誰もが、そして、どのような状態であっても、尊厳を宿しています。しかしながら、私たちは目に見える能力や地位あるいは容姿に目と関心を奪われ、そこにおいて人間を評価してしまいがちです。そして、低い評価をした人を価値が低い人のように見なし、場合によっては、蔑んだり虐待をしたりしてしまいます。 こうした現状に抗し、適切なソーシャルワークを展開するためには、すべての人間が“等しく”宿している“尊厳”について学ぶ必要があるのです。

2.尊厳教育の位置づけ

「教養」とは「他者と共に生きていくために必要な心や立ち居振る舞い」のこです。教養教育が専門教育を支えます。そして図1のように、教養教育と専門教育の中核にあるのが社会福祉学部における尊厳教育です。

3.各自で尊厳の「はたらき」に出会う大学生活

 尊厳について学んだ学生が、レポートの中で次のように書いています。 「尊厳に触れる経験は、数回の授業だけでは得られないと思う。日常の中でも心の深いところで感じる経験を積み重ね、尊厳について考え続けることが重要だと思った」  この学生が指摘している通りです。尊厳の意味を知り、それに触れる「きっかけ」を提供するのが授業です。そして、授業で学んだことを自分の生活の中に活かし、尊厳を感じる経験を積み重ねていってもらいたい。これが社会福祉学部の尊厳教育の根底にある考え方です。

“尊厳に触れる経験は、数回の授業だけでは得られないと思う。日常の中でも心の深いところで感じる経験を積み重ね、尊厳について考え続けることが重要だと思った”

学生レポートより抜粋